CCCマーケティング株式会社(本社:東京都渋谷区、代表取締役社長:北村和彦)が設立した7000万人の思いを紡ぐ研究所「CCCマーケティング総合研究所」(以下「CCCMK総研」)は、このたび、「生活者意識調査・新たな生活者意識を探る~商品に関するジェンダー意識調査~」(https://www.cccmk.co.jp/thinktanks/column-25)を実施し、その結果をまとめました。
「ジェンダーニュートラル」という言葉を耳にしたことはありますか。男女の性差を二分することに疑問を呈し、「男性は、こうあるべき」「女性は、こうあるべき」といった伝統的な役割認識や言葉・思考・社会制度などにとらわれない考え方です。「ジェンダーニュートラル」な考え方が世の中に一定数存在するようになると、今まで当たり前のようにあった男女の性差による消費の際が薄くなり、無くなっていく未来が待っているのではないでしょうか。
世の中に目を向けてみると、生物学的な性差に囚われた固定概念を持つことをやめようというジェンダーレス化の動きは、我々消費者も生活の中で目にする事が増えてきていると感じます。例えば、ランドセルの多色展開、学校制服のジェンダーレス化の動きのほか、広告ではジュエリーブランドがジェンダーレスなジュエリーの使い方を提案し話題になりました。また、一部のアパレルブランドでは男性と女性の洋服サイズの比較表を用意する店舗が出てくるなど着こなしの幅を広くとらえる事ができる環境も感じられますし、利用者の性別を限定しないユニセックス商品のブランドや商品の数もここ数年で目にすることが増えてきています。
今回、CCCマーケティング総合研究所(以下「CCCマーケティング総研」)では、2021年7月14日(水)~20日(火)にかけて、2,061人のT会員のみなさまを対象に「男性向け」「女性向け」「性別に関係なく誰でも購入できる」商品についてのアンケート調査を実施しました。生活者を取り巻く環境が変化しつつあるいま。生活者のみなさんが、商品の対してどのようなジェンダー意識をお持ちなのかを紐解いていきたいと思います。
※ご注意点
本コラムは商品に対する性別の意識や利用状況、商品に対するご意見を伺い、調査結果を公表することで、今の生活者の思いを理解いただくことを目的としています。本調査で、は回答者のみなさまに性別をお伺いしておりません。そのため本コラムのグラフ図には、性別表記が無い事をあらかじめお知らせいたします。
- 誰にでも平等なサービスが好印象
はじめに、ジェンダーだけにこだわらず「世の中で提供されているサービス・商品」全般に対して、生活者のみなさんがどのような心持ちなのかを見ていきたいと思います。<図1>は、世の中にある商品・サービスに対し生活者の「違和感」を聞いており上段から「違和感を覚える」と「やや違和感を覚える」の合計値が高い項目から降順に並んでいます。上段にあるようなサービス提供者側が“一定の条件で生活者を識別するような心象のサービス”には5割以上の生活者が何かしらの「違和感を覚えている」ようです。「違和感がない」が多い最下段には、生活者自身が利用する・しないを判断できるFSP(Frequent Shoppers Program)サービス、具体的には「航空会社のマイレージサービス」や「小売業で多く導入されているポイントサービス」等において「違和感がない」の回答が6割を超えています。
そのような中、“特定の受益者を限定するようなサービス”として「年代によって受けられるサービス」、「家族構成を条件に受ける事ができるサービス」、「その人の置かれている状況により受けられる学割などのサービス」は、「違和感を覚える」の合計層が3割程度いる状況ですが、「違和感がない」の回答者も5割を超えています。これは、生活者の多くが既存受益者としての優位性をある程度感じていることから、このような回答の分布になっている印象を受けます。
このように見ていきますと
・生活者は「自身でサービスを受ける意思の行使をしたい」ということ
・一定の条件下においては「広く受益者メリットがあるものには肯定的」
に見えると言ってよいのではないでしょうか。しかし、今後“特定の受益者を限定するようなサービス”を展開する場合は、「違和感を覚える」層が一定数いる事を認識しつつ企画をする事が肝要になってくるかもしれません。
- ジェンダー限定のサービスに違和感5割
<図1>から、ジェンダー“男性・女性”といった表記がある設問について、「サービス」「商品」「店舗・売り場」のカテゴリ別に、世代別の回答状況を詳しく見ていきたいと思います。「ジェンダーを限定されるサービス」は、<図2>全世代で5割弱の回答者が何らかの「違和感を覚える」と回答しています。世の中には、“男性限定”“レディースプラン”など特定の性別のみが受けられるサービスがまだまだ多く見受けられる状況です。(現在は、サービス名として使われていて、利用するジェンダーを制限するものではないサービスも存在しますが、今回の調査では名称としての心象を回答してもらっています)。回答状況から見ますと、5割弱の回答者のみなさんは、多様性の尊重の視点からサービス内容・サービス名称の点においても配慮する必要があると感じているのかもしれません。
世代別にも見てみましょう。まず、注目すべきは10代の意見が、全体と比較して7ポイント以上高いことです。この傾向は、「サービス」だけでなく後述する「商品」「店舗・売り場」のジェンダーが関わるカテゴリにおいても10代を含む20代以下が全体よりも高い違和感を覚えている事がわかります。
- 選ぶ自由を
続いて、「商品」について<図3>を確認しながら、色のバリエーションへの意識を見ていきましょう。<図3>から、若い世代ほどジェンダーによって「商品」を選ぶ自由を制限されたくないという思いがあるように思います。詳しく見てみると10代は全体と比較して9.3ポイント「違和感を覚える」が高くなっています。この数値は、他のジェンダー意識の設問項目(図2・図3)と比較しても差分が高い事から、注目すべきポイントとなりそうです。 色のバリエーションにおいては作る側や提供する側の視点で考えると最適な在庫数を導きだすには一定の検証が必要となりますが、若者層に対するマーケティングにおいては一考の余地があると見てよいでしょう。
- 行動の差が違和感の差?
続いて、売り場についての意見を見ていきましょう。現在は、商品の売り場自体が男性フロアと女性フロアと分かれていたり、また売り場の一部が女性コーナー、男性コーナーとして分かれていることが多い状況です。しかし、この状況に対し回答者全体の1/4の方は違和感を覚えているようです。また、こちらも20代以下の若者の違和感が高い傾向が見えています。若者の違和感の高さは、“実際に自身とは異なるジェンダー商品を購入した経験、または購入しようとした経験”のあるなしが影響しているのではないでしょうか。この経験の実情については、次回以降のコラムで詳しくご案内したいと思います。
- 若者は、「ジェンダー平等」の意識が高く行動も
今回は、世の中で提供されているサービス・商品に対して“ジェンダー視点”で生活者の意識をみてきました。全体を通して、20代以下の若者層が“ジェンダー視点”での違和感を覚えるシーンが多いようです。これには、若者層(20代以下)の「ジェンダー平等」への意識が根底にあると思われます。図5は、2015年の国連サミットで2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標として採択された「持続可能な開発目標(SDGs)17のゴール」について「重要だと思うもの(3つ)」「実際に行動している(いくつでも)」に回答してもらった項目から5つを掲載しています。17のゴールの1つである「ジェンダー平等を実現しよう」(赤枠内)に注目してみましょう。「重要だと思う」も「行動している」も共に10代が最も高く、年代があがるにつれて低くなっていく傾向が見ることができます。前段までにご紹介しました若者層のジェンダーに対する意識が総じて高い理由は、このような「ジェンダー平等」に対する”思い”と”行動”に裏付けされていると言えるのではないでしょうか。
次回は、商品に感じるジェンダーイメージや、ジェンダーの垣根を超えた商品購入の実態についてお送りする予定です。
【調査設計】
調査地域 :全国
調査対象者:男女16~79歳のT会員
サンプル数:2,061サンプル
調査期間 :2021年7月14日(水)~7月20日(火)
実査機関 :CCCマーケティング株式会社(Tアンケートによる実施)
【CCCマーケティング総合研究所について】
消費データ、生活者のインサイトや心の変化、さらには社会環境や経済情勢などを踏まえ、生活者のみなさまの「ちょっといいな」を実現するために役立つ情報を発信することを目的に、活動しています。2020年より、オープンイノベーションプラットフォームとして「学生マーケティング研究会」を立ち上げ、学生の皆さまにとっては「より実務に近い形でマーケティングを経験する場」、企業の皆さまにとっては「若者の視点や声を知る場」としての活動を展開中です。