【社会課題】生物資源の保護を拡充する社会を実現するために不可欠な「生物多様性を監視・保全する技術」においては、世界の研究投資額が10年間で20倍に急激に増加

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将来的なTNCDの義務化も見据えて、企業活動にとっても生物多様性の損失によるリスク評価がさらに重要に!

アスタミューゼ株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長 永井歩)は、は「2022年度版社会課題俯瞰レポート」を提供しており、各105社会課題のインパクトの定量評価と、テクノロジーによる課題の解決策を網羅的に整理しています。このたび社会課題のうち、「ゲノム・遺伝子資源の活用により生物資源の保護を拡充する社会を実現する」という課題に着目して、自社のイノベーションデータベースの解析を行ないました。世界中の研究投資情報を解析したところ、本課題の解決策の一つである「生物多様性を監視・保全する技術」においては各国政府による投資額が最大で過去10年間で20倍に増加していることを明らかにしました。その分析内容と結果について今回ご報告します。

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課題の背景

地球上の生命には動物、植物、バクテリアなど、3000万種ともいわれる多種多様な生物が含まれており、これらが直接・間接的につながり合いバランスを保っている状態を「生物多様性(Biodiversity)」と呼んでいます。

私たち人類が生物多様性から受ける恩恵は幅広く、主に食料など生活に不可欠な資源を供給する機能、気候や自然災害を制御する機能、レクリエーションやエコツーリズムなど文化的な機能が挙げられます。

近年、急激な気候変動や環境汚染、生物資源の乱獲などにより、生物多様性が失われつつあり、人間の活動や経済活動に対する大きなリスクであるため、企業の活動にとっても持続的なビジネスを行うためにも生物多様性の保全が不可欠です。

すでに気候変動に関しては、企業に対し気候変動への取り組みを開示することを推奨する「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言が定着しつつあり、各国で企業に対しTCFD提言に基づく開示義務化・制度化が進んでいます。

このムーブメントに続き、2021年6月に発足した国際イニシアチブがTCFDの生物多様性版といえる「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」です。TNFDの導入により、TCFDと同様に、企業は経済活動に伴う生物多様性への影響分析、保全への取り組みが強く求められることになりそうです。

このように、生物多様性に対する関心が高まるなか、生物多様性の保全に関してはどのような課題があり、どのような解決策が考えられるのでしょうか? 生物多様性に関する社会課題は、陸上生態系、海洋生態系の保全など、多岐にわたりますが、今回のレポートでは、生物多様性の根幹となる遺伝資源の保護に着目します。

遺伝資源とは、現実の又は潜在的な価値を有する、遺伝の機能的な単位を有する植物、動物、微生物その他に由来する素材と定義されており、具体的には農作物や家畜の品種や系統、乳酸菌や酵母などの有用微生物だけでなく、生態系を構成するさまざまな生物種が含まれます。多様な遺伝資源を持続的に利用するためには、各地域の生態系や生物多様性を維持し、遺伝資源の収集、保存、分配が不可欠となります。

1993年に発効した生物多様性条約では、遺伝資源の利用から生まれる利益を公平に分配することが定められていますが、近年では資源国における遺伝資源の独占や、気候変動や開発による生態系の破壊により、その実現が危ぶまれているところです。

課題解決につながる解決策・テクノロジーの整理

生物資源の保護を拡充する社会を実現するためには、テクノロジー・ビジネスによる解決策が不可欠となります。

まず、遺伝資源の多様性を維持するためには、多様な生物が生息できる環境を保全することが、すべての基礎となります。この実現のためには、生物の生息域、分布域の調査や、産業排水の浄化や植林・植樹による生息環境の維持が必要となります。

そして、植物、動物、微生物など多様な生物種の遺伝情報のデータベースや、種子バンク、ジーンバンク、バイオリソースなど、遺伝資源の保存基盤を構築し、世界中のだれでも簡便に、安価に遺伝資源にアクセスできるようにすることが重要です。

このような遺伝情報基盤を活用して、環境DNA(海洋、河川、土壌などに存在する生物由来のDNA)分析やメタゲノム解析などにより実際の生物多様性を解析し、保全計画を策定することが可能になります。また、保存基盤を利用することで、公平に遺伝資源を分配したりすることが可能になり、最終的に豊かな食糧生産や医薬品の開発など、遺伝資源の有効利用が実現します。

解決策となるテクノロジーのトレンド分析・注目技術

本レポートでは、解決策となるテクノロジーの一端を紹介しましたが、世界ではどのような解決策に注目が集まっているのでしょうか?今回はアスタミューゼが保有する世界最大級(注)の無形資産可視化データベースから、生物資源の保護を拡充する社会を実現するための解決策に関する情報を抽出しました。

(注)193ヵ国 / 39言語に跨るデータを計7億件以上保有する世界最大級のデータベース。技術を中心とした無形資産や社会課題 / ニーズを探索できます

生物多様性の保全に関しては、現状では国家、政府、大学などの公的機関によるより研究寄りの基礎的な取り組みが主流と考えられるため、大学・研究機関向けの研究予算(グラント)に着目しました。グラントデータの特徴を分析すると、今後5-10年後に実用化される将来有望な技術領域 / 研究テーマを見いだせることが特徴です。

今回の分析では、2010年以降にプロジェクトが開始した世界中の研究テーマを対象として、前述の課題解決につながる解決策のうち、特に重要と考えられる「生息環境の保全・保護」、「遺伝資源データベース・保存基盤の構築」、「生物多様性の監視・保全」の3つにフォーカスして研究テーマ件数および配賦額の年次推移を分析しました。

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図:「生物資源の保護を拡充する社会の実現」の解決策に関わる研究予算(グラント)件数および配賦額の年次推移。アスタミューゼの無形資産可視化データベースから作成。2010年を1とした比で示した。配賦額はプロジェクト期間で均等割りした値を集計。2020年以降はデータベースに未登録のものが存在するため参考値。

図に示すように、2010年以降、「生物多様性の監視・保全」に関するグラント件数、配賦額が急激に伸びていることがわかり、2018年には2010年と比較して20倍以上まで増加していることがわかりました。

特に環境中の生物の存在量や構成比を可視化できる環境DNAの分析に関する研究が増えており、直近10年でDNA分析にかかるコストや時間が大幅に改善されたことや、ゲノム情報データベースの整備が進んだことが増加の一因と推察されます。また、「遺伝資源データベース・保存基盤の構築」も件数は約10倍に増加していますが、配賦額の伸びは若干緩やかになっています。基盤整備の重要性はありながらも裏方の存在という側面もあり、各国で予算の確保が難しくなっている状況も考えられます。

グラントデータに着目すると、ビジネスの観点では研究・開発を共同で行えるプレイヤー(大学・研究機関)を探すこともできます。 そこで、配賦額、件数が伸びている2つの解決策に関して、配賦額が大きく、企業の新規事業シーズや共同研究先として有望な研究テーマをそれぞれご紹介します。

まず、「生物多様性の監視・保全」に関しては、農研機構・馬場 友希上席研究員らは環境DNA解析に基づく水田の生物多様性・生態系サービス評価手法を開発しています。本研究では、環境DNAを分析することで水田の「健康診断」を行うことで、農作物の生育や病害虫の発生との関連を明らかにすることを目指しており、生物多様性の可視化による食糧生産増進に繋がる研究として有望と考えられます。

参考:https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21H02219

また、「遺伝資源データベース・保存基盤の構築」に関しては、産総研・中井 亮佑研究員らは難培養性の微生物の可培養化法の開発を進めています。自然界に存在する微生物の大多数が培養困難であり、例えば土壌中の微生物の多くが機能がわからない未知種で占められています。本研究ではこれらの微生物の「培養のコツ」の解明に取り組んでおり、すでに新規細菌の分離・培養に成功しています。今後も農業生産や、製薬シーズとして有用な機能未解明の微生物の分離・保存が可能になる研究テーマとして期待されます。

参考:https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PLANNED-19H05683

今後の展望

本レポートでは生物資源の保護を拡充する社会を実現するための解決策として、特に環境DNA解析を中心とした生物多様性の監視・保全に関する研究に対する投資が急激に増えていることが見出されました。

また、気候変動などの環境の変化に対応して、生物資源を保存することも引き続き重要となります。遺伝資源は一度失われると同じものを獲得することは非常に困難となるため、多様性を保ち遺伝資源を保存することは、将来的な環境の変化や、ニーズに応じた品種改良を可能とする基盤であり、人類共通の財産として保存・提供体制の確立が不可欠です。

今後、企業が持続可能な経済活動を行うためには、生物多様性のリスクと機会を理解することがさらに求められることになるため、現時点では大学や公的研究機関がもつ技術シーズにいち早く着目し、生物多様性の保全を新たなビジネス機会としてとらえることが重要と考えられます。

<著者:アスタミューゼ株式会社 伊藤大一輔 博士(生命科学)>

レポートの詳細については下記までお問い合わせください。

【本件に対する問い合わせ】 
アスタミューゼ株式会社 広報担当  E-Mail: [email protected] 
https://www.astamuse.co.jp/contact/

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