国連広報センターが「SDGメディア・コンパクト」加盟メディア有志とともに立ち上げた「1.5℃の約束 – いますぐ動こう、気温上昇を止めるために。」キャンペーンは、参加メディア数が今年6月の立ち上げ時の108から最終的には146に増え、2022年11月18日に終了を迎えました。
本キャンペーンは、メディアの情報発信を通じて、なぜ世界の平均気温上昇を産業革命以前と比較して1.5℃に抑えることが必要なのかについて理解を促進し、地球温暖化をはじめとする気候変動に歯止めを掛けるための具体的なアクションを提示し、個人や組織に行動変容を促すことを狙いとして、2022年6月17日に始動し、推進強化期間を9月19日から11月18日として展開されました。国連とメディアとのグローバルな連携の枠組み「SDGメディア・コンパクト」に加盟しているメディアが、国レベルで共同キャンペーンを展開する世界初の試みとなった本キャンペーンでは、気候危機という人類の脅威に対して、連帯と協力の精神のもと、メディア企業やメディア・グループの枠を越えて連携するという事例も生まれました。
同キャンペーンのタイトルや決意表明、ロゴや動画等のコンテンツの制作面では、株式会社博報堂DYホールディングスが自社の「クリエイティブ・ボランティア」制度を通してキャンペーンを支援するとともに、本キャンペーンによって、気候危機や脱炭素について生活者の意識や行動にどのような変化が起きたのかを調査しました(調査実施日:2022年11月19日-20日、調査対象:全国15~79歳男女 計1,400名ずつ)。
その結果、キャンペーンの関連情報に触れた人はそうした情報に触れていない人よりも、気候危機や脱炭素への関心が高まり、また意識を伴う行動変容の度合いが大きく高まっていました(いずれも約30ポイント近くの差)。また、1.5℃という具体的な基準を複数のメディアからの発信で触れた人は関連情報に触れた人の7割を占め、多様なメディアが連携して具体的な数値や生活者に身近でできることを呼び掛けたことが有効であったことが伺えます。脱炭素社会の実現に向けて認知はしつつも、行動までは至っていない生活者層を動かす手掛かりが見えてきました。
メリッサ・フレミング国連事務次長(グローバル・コミュニケーション担当)はキャンペーンの結果と調査分析について「このようなインパクト調査がなければ、キャンペーンの意味がなくなってしまいます。詳細にわたって様々な視点から調査したことは非常に高い価値があります。これだけの成果がもたらされているわけですから、継続できれば大きな違いをもたらすことができるでしょう。この素晴らしいキャンペーンに参加してくださった関係者の皆様に御礼申し上げます」とコメントしています。
以下、同社の調査結果のポイントと分析です。
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目次
<調査結果のポイント>
【“1.5℃に抑えるべき”という情報発信に触れた人(情報認知者)は、33.9%】
- 9月~11月のキャンペーン強化期間中(以下強化期間中)に多くのメディアで取り上げられた内容のうち、“1.5℃に抑えるべき”という情報や本キャンペーンのロゴに触れたと回答した人(情報認知者)は33.9%。9月時点から7.6ポイント増加している。
- 気候危機に関する情報について見聞きしたメディアを聞くと、情報認知者ベースでテレビが76.5%、新聞が45.1%、インターネットニュースサイトが35.8%と高くなっている。またテレビ番組のジャンルではニュースやワイドショー、ドキュメンタリーなどが上位となっている。
【キャンペーンの関連情報に触れた人ほど、気候危機や脱炭素への関心が大きく高まる】
- 強化期間中に“1.5℃に抑えるべき”という情報発信に触れた人(情報認知者)と、触れていない人(非情報認知者)を比較したところ、「非常に高まった」「高まった」の合計が情報認知者は気候危機への危機感は96.3%、非情報認知者は68.3%と差が大きく、同様に今までより意識して行動したいかと聞くと「非常に意識して行動するようになった」「ある程度意識して行動するようになった」の合計が情報認知者は96.7%、非情報認知者は68.4%と差が大きい結果となった。
- 国連が推奨する、気候危機の抑制のために個人でできる10の行動「ACT NOW」について、情報認知者は非情報認知者よりも実践度が10%以上高い。特に「環境に配慮した製品を選ぶ」や「周囲の人に参加してもらうように呼び掛ける」などは20ポイント以上高くなっている。
【複数のメディア・媒体で情報接触するほど意識は高まる傾向。身近にできる情報発信を】
- 情報認知者が“1.5℃に抑えるべき”という情報と接触したメディア数は、1つが30.7%、2つが27.9%。3つ以上は41.1%で、複数メディアによる情報認知者が約7割を占める。
- 情報認知者は、接触メディアが多いほど意識変化や行動変化が高くなる傾向がある。情報接触量・回数が多いほど意識や行動に与える影響が高い。
- 「複数の記事や番組への接触」「深刻度や内容への理解」「自分でもできることへの気づき」がキャンペーン認知により脱炭素への興味が高まった理由として上位にあがってきた。また、「1.5℃の約束」という具体数字やメッセージが強いインパクトを与えたことも影響している。理由としては、「複数の記事や番組で報道されていたから」が44.2%と高く、「長い間、何度も触れたから」が35.1%、「日々の買い物など、身近でできることがある」29.5%などが理由の上位となっている。
<調査結果を踏まえて>
気候変動対策のアクションを呼び掛けるキャンペーンである「1.5℃の約束 – いますぐ動こう、気温上昇を止めるために。」では、1.5℃という具体的な基準を設けて、多様なメディアが生活者に呼び掛けたことが有効であったことが伺えます。
複数のメディアを通じて気候危機の現状について知るという「具体的な危機感の醸成」とともに、生活者も取り組むべき身近な問題であるという「自分事化の促進」が継続的に発信されたことで、視聴者・読者は一定の情報量に複数回接触することとなり、生活者の意識変化や行動変化が高くなる傾向が見られました。今回のキャンペーン結果から、脱炭素社会の実現に向けて認知はしつつも、行動までは至っていない生活者層を動かす手掛かりが見えてきました。
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同キャンペーンをSDGメディア・コンパクト加盟メディアに呼び掛け、とりまとめてきた国連広報センターでは、調査結果も踏まえつつ今後のキャンペーンのあり方について検討する予定です。
「1.5℃の約束 – いますぐ動こう、気温上昇を止めるために。」キャンペーンとは
本キャンペーンは、メディアの情報発信を通じて、なぜ世界の平均気温上昇を産業革命以前と比較して1.5℃に抑えることが必要なのかについて理解を促進し、地球温暖化をはじめとする気候変動に歯止めを掛けるための具体的なアクションを提示し、個人や組織に行動変容を促すことを目的としています。
キャンペーンタイトルの「1.5℃の約束」には、日本を含む国連気候変動枠組条約(UNFCCC)締約国が、昨年11月に開催された気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)で示した、世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べて1.5℃に抑えることを事実上の目標とする決意をあらゆる個人と組織がともに支え、実行する決意が含まれています。スローガン「いますぐ動こう、気温上昇を止めるために。」には、その目標に向かって具体的なアクションを取る必要性を訴えるメッセージが込められています。
本キャンペーンは各国首脳や世界のリーダーたちが米国 ニューヨークに集結する第77回国連総会ハイレベルウィーク初日の9月19日(月)から、エジプト シャルム・エル・シェイク で開催された気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)の最終予定日であった11月18日(金)までの2カ月間をキャンペーン強化期間とし、情報発信を強化しました。
本キャンペーンの参加メディアは番組や編集コンテンツ、自社のウェブサイトやSNS、イベント等の発信の場を通じて、気候変動の現状を伝えるとともに、対策を拡大、加速するためのアクションなどを提案し、個人や組織に「1.5℃の約束」を自分事化してもらうことを目指します。また参加メディアには、企業としての自社の気候アクションの取り組みも強化することが期待されています。
「1.5℃の約束 – いますぐ動こう、気温上昇を止めるために。」キャンペーン始動(2022年6月17日付 プレスリリース)
https://www.unic.or.jp/news_press/info/44283/
キャンペーン関連コンテンツ、参加の146メディア一覧はこちらから
https://www.unic.or.jp/news_press/info/44236/
なぜ今「1.5℃」なのか?
世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べて1.5℃に抑えることは、2015年12月に採択されたパリ協定で努力目標として掲げられ、昨年11月に英国・グラスゴーで開催された気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)で国連気候変動枠組条約(UNFCCC)締約国の事実上の目標とする決意が示されました。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2018年に発表した特別報告書『1.5℃の地球温暖化』(Global Warming of 1.5℃)で示された通り、地球温暖化を2℃以上ではなく、1.5℃に抑えることによって、多くの気候変動の影響が回避できるためです。
この1.5℃目標を維持するために、世界は2030年までに2010年比で二酸化炭素排出量を45%、2050年ごろに実質ゼロにまで削減し、メタンなどその他の温室効果ガスの排出も大幅に減らす必要があるとIPCCは示しています。しかし、昨年11月にUNFCCC事務局が発表した「自国が決定する貢献(NDC)」に関する統合報告書(Nationally Determined Contribution synthesis report)(アップデート版)によると、現時点での各国の温室効果ガス削減目標では排出量が2030年には2010年比で14%近く増加することになります。
この緊急事態には、IPCCによる第6次評価報告書をはじめ、科学の声が強い警鐘を鳴らしています。昨年8月に発表されたIPCC第1作業部会の報告書『気候変動2021:自然科学的根拠』(Climate Change 2021: The Physical Science Basis)では、世界の平均気温はすでに1.1℃上昇しており、この上昇は人間活動による温室効果ガスの排出に起因するという分析結果が報告されました。さらに、 国連の世界気象機関(WMO)は今年5月に発表した報告書『WMO Global Annual to Decadal Climate Update for 2022–2026』のなかで、2022年から2026年までの5年の間に気温上昇が1.5℃を超えてしまう可能性は50%近くと発表し、世界に衝撃を与えました。
深刻化する気候変動は、毎年のように襲う熱波や大型台風などの異常気象や気候関連災害として日本にも甚大な影響を与えていますが、今年2月に発表されたIPCC第2作業部会報告書『気候変動2022:影響・適応・脆弱性』(Climate Change 2022: Impacts, Adaptation and Vulnerability)によると、今後気候災害が激甚化し、より頻発すると予測されています。
国連環境計画(UNEP)が2020年に発表した『排出ギャップ報告書2020』(Emissions Gap Report 2020)によると、日本は国別の温室効果ガス排出量では世界第5位です。あらゆる担い手が気候変動対策のためのアクションを取って社会システムを大きく変革することが急務となっている今こそ、メディアの力を通じて日本で気候アクションを動員していくことは世界全体にインパクトを持つと期待されます。
SDGメディア・コンパクトとは
2018年9月、アントニオ・グテーレス国連事務総長が31社の創設メンバーとともに立ち上げた「SDGメディア・コンパクト」は、世界中の報道機関とエンターテインメント企業に対し、その資源と創造的才能をSDGs達成のために活用するよう促すことを目的としています。現時点でアフリカ、アジア、米州、オーストラリア、欧州、中東から300社以上がSDGメディア・コンパクトに加わっています。事実やヒューマンストーリー、ソリューション(解決策)を発信することにより、同コンパクトはSDGsに関するアドボカシーと行動、説明責任の強力な原動力となっています。
SDGメディア・コンパクト の詳細はこちらから
https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/sdg_media_compact/
ActNowとは
ActNowは、個人レベルでの気候アクションをグローバルに呼びかける国連のキャンペーンです。このキャンペーンは、気候変動に対する認識と野心を高め、対策を強化するとともに、パリ協定の履行を加速するための国連による協調的取り組みに欠かせない要素です。ActNowは、個人を啓発し、主として消費パターンやライフスタイルの見直しなどによる行動変容を促すことを目標としています。人々が日常生活で下す決定は、地球全体に影響します。人々の習慣や決まり事を変え、環境に対する悪影響が比較的小さい選択を行うことにより、人々は気候変動という課題に立ち向かう力を得られるのです。
国連広報センターとは
国連広報センター(UNIC)は、国連事務局のグローバル・コミュニケーション局(DGC)に所属。日本において、国連とその活動について人々の関心を高め、理解を深めるための活動を展開しています。その活動は幅広く、日本語資料の作成、記者会見やメディア・インタビュー設定、ウェブサイトやソーシャルメディアによる情報発信、イベントの企画・開催など、多岐にわたります。
博報堂DYホールディングスの本キャンペーン調査について
博報堂SDGsプロジェクトは、脱炭素に関する生活者の意識やアクションを継続的に調査・分析しています。
今回、国連のクリエイティブ・ボランティアとして参画した「1.5℃の約束キャンペーン」がどの程度生活者の脱炭素に関する意識を高め、行動につながったのか調査・分析するため、博報堂「第三・四回生活者の脱炭素意識&アクション調査」の一部として実施しました。
https://www.hakuhodody-holdings.co.jp/topics/2022/12/3941.html
キャンペーン調査概要
調査主体: (株)博報堂DYホールディングス
調査手法: インターネット調査
対象者: 15-79歳の男女1,400名
※分析時は、人口の性年代構成比に基づきウェイトバック集計を実施。本資料掲載の数値はウェイトバック後のものを使用。
対象地域: 全国
調査時期 :2022年9月3日-4日(キャンペーン前)、2022年11月19日-20日(キャンペーン後)
調査委託先:(株)H.M.マーケティングリサーチ