FLOSFIA、酸化ガリウムのP層課題に決着!

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世界で初めてウルトラワイドバンドギャップP型半導体「酸化イリジウムガリウム」と組み合わせた構造によりジャンクションバリア効果実証に成功

株式会社FLOSFIAでは、最先端のシリコンカーバイド(SiC)ダイオードでも用いられているJBS構造を酸化ガリウムデバイスに適用し、酸化イリジウムガリウム(α-(IrGa)2O3)薄膜をP型半導体層として埋め込み成長することで、ジャンクションバリア効果によるリーク電流抑制の実証に世界で初めて成功しました。

【本研究開発のポイント】
株式会社FLOSFIA(本社:京都市西京区、代表取締役社長:人羅俊実、以下FLOSFIA)は、半導体により引き起こされる3つの環境負荷(エネルギー、プロセス、マテリアル)の低減を「半導体エコロジー®」※1と名付け、最終目標としています。そして、その具体的な取り組みとして京都大学発の新しいパワー半導体※2「酸化ガリウム(Ga2O3)」※3の普及を目指しています。この半導体エコロジー®を実現するためには、酸化ガリウムの物性値を最大限引き出すことが効果的で、FLOSFIAでは、酸化ガリウムと組み合わせて使う良質なP型半導体の実現が不可欠であると考えてきました。

図1  酸化ガリウムのみで作製したデバイスとP型半導体を組み合わせたデバイスとの比較

 

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これまでに、FLOSFIAでは、京都大学と共同で2016年に酸化ガリウムと同じ結晶構造を有する新しいP型半導体「酸化イリジウム(α-Ir2O3)」の開発に成功して以降、新規P型半導体層のデバイス実証を進めてきました。今回、FLOSFIAでは、最先端のシリコンカーバイド(SiC)ダイオードでも用いられているJBS構造※4を酸化ガリウムデバイスに適用し、酸化イリジウムガリウム【α-(IrGa)2O3】※5(以下「酸化イリジウムガリウム」という)薄膜をP型半導体層として埋め込み成長することで、ジャンクションバリア効果によるリーク電流抑制の実証に世界で初めて成功いたしました(図2、図3)。

今回用いた酸化イリジウムガリウムはウルトラワイドバンドギャップ半導体※6で、バンドギャップは約5eVと極めて大きく、ホール濃度は1×1019cm-3と高濃度であることを確認しており、高電界を前提とした幅広いデバイス設計に適用可能であることが示唆されます。そして、酸化ガリウムデバイスは、この酸化イリジウムガリウムと組み合わせることにより、SBDやMOSFET、IGBTなど様々なパワーデバイスとして特性を最大化でき、小さなチップで大電流を流せることが出来るようになります。さらに、デバイスの低コスト化が期待できるなど、半導体エコロジー®の実現に向けて大きな前進を果たせると考えています。

【本研究成果】

まず、酸化ガリウムn-層の一部にトレンチ構造を作製し、新規P型半導体を埋め込んで結晶成長を行いました(図2)。結晶成長にはFLOSFIA独自のミストドライ®法※7を用い、チップサイズは約0.9mm程度、トレンチ構造のラインアンドスペースの大きさは各1µmとしました。
その後、作製したJBS構造チップに逆方向電圧を印加し、酸化イリジウムガリウムの埋込構造によるリーク電流の抑制効果を確認しました(比較対象には、同一ウエハ内に作製したSBDを使用)。また、温度を25℃から125℃に上げたとき、さらに抑制効果は大きくなることを確認しました。

図2 JBS構造に酸化イリジウムガリウムを適用

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図3 逆方向特性

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【今後の展開】

今回の研究成果であるJBS構造はFLOSFIAのコランダム型酸化ガリウム(α-Ga2O3)パワーデバイス「GaO®」シリーズの第2世代ダイオードから適用予定です。立ち上がり電圧の低減による順方向電圧降下Vfの低減が期待できることから、これまでの特徴であった高速動作性に加えて、100kHz以下の周波数領域で用いるインバーターその他の幅広い電力変換器への適用を目指します。その後MOSFETやIGBT等のトランジスタにも新規P型半導体「酸化イリジウムガリウム」の適用を目指します。電力変換器の例としては、ACアダプタなどの商用電源、ロボットの駆動回路、電気自動車、エアコンや冷蔵庫などの白物家電、太陽電池のパワーコンディショナなどが挙げられ、GaO®パワーデバイスの採用により、「電力変換器全体の小型化や低コスト化の限界」※8の突破を目指します。機器の種類にもよりますが、例えば、電力変換器の小型化の程度は、数十分の一に及ぶことがあり、コスト低減効果は電力変換器全体の50%に及ぶことが期待されます(FLOSFIA試算)。

【謝辞】

今回の研究成果は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「省エレクトロニクスの製造基盤強化に向けた技術開発事業」よる支援を受けて実施されました。

【FLOSFIA概要】

・会社名:株式会社FLOSFIA(フロスフィア)
・所在地:京都市西京区御陵大原1番29号
・代表者:人羅 俊実
・資本金:42億850万円(資本準備金含む)
・ホームページ:https://www.flosfia.com
・連絡先:TEL 075-963-5202 FAX 075-320-1712  Mail [email protected]
※「GaO®」・「ミストドライ®」・「半導体エコロジー®」はFLOSFIAの登録商標です。

【用語説明】

※1「半導体エコロジー®」
半導体の高度化による地球環境への負荷低減を最大化した状態やそれに向けた取り組みを「半導体エコロジー®」と名付けています。エネルギーロスを低減する「低エネルギーロス」、製造工程のロスを低減する「低プロセスロス」、周辺回路・システム全体で有限な地球資源のロスを低減する「低マテリアルロス」といった総合的なエコロジーの実現を通じて、持続可能な新しい未来の実現に貢献してまいります。FLOSFIAでは、究極の半導体エコロジー®の実現を目指し、さまざまな企業と連携しています。

※2「パワー半導体」
電力変換に用いられる半導体のことで、一般的な半導体と比較して、高い電圧・大きな電流を流すところで使用されています。トランジスタやダイオード、サイリスタなどのパワーデバイスとして利用されます。

※3「酸化ガリウム(Ga2O3)」
パワー半導体材料として注目を集めている新材料です。様々な結晶構造を有し、コランダム構造(α構造)以外にもベータガリア構造(β構造)などの結晶構造をとることが知られています。βガリア構造は酸化ガリウムしか取らない特殊な結晶構造であるのに対し、コランダム構造は酸化ガリウム以外にもサファイアや酸化インジウムなどさまざまなファミリー群が存在することから、ヘテロ積層での結晶成長やデバイスへの活用が期待されてきました。

※4「JBS構造」
ジャンクションバリアショットキー構造。埋め込まれた新規P型半導体層から広がる空乏層によりショットキー界面の電界強度を緩和してリーク電流を減らすことができます。

※5「酸化イリジウムガリウム(α-(IrGa)2O3)」
ガリウム、イリジウム、酸素から成るコランダム構造の3元系混晶です。

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※6「ウルトラワイドバンドギャップ半導体」
バンドギャップが約3eV程度と大きいSiCやGaNはワイドバンドギャップ半導体と呼ばれ、これらよりもさらに大きなバンドギャップ(一般に4eV以上)を有する酸化ガリウム、ダイヤモンド、AlNなどをいいます。

※7「ミストドライ®法」
京都大学の藤田静雄教授らの研究グループが独自に開発したミストCVD法をFLOSFIAが独自に改良した成膜方法をいいます。FLOSFIAでは酸化ガリウムの合成やその不純物濃度制御をミストドライ®法で行っています。

※8「電力変換器の小型化、低コスト化の限界」
電力変換器の小型化、低コスト化には、動作周波数の高周波化が必要と考えられています。シリコン(Si)を用いた場合には、高周波動作させると変換損失が大きくなってしまい追加の放熱対策が必要となることなどから、電力変換器の小型化が困難であると考えられています。また、新しい半導体材料としてシリコンカーバイド(SiC)を用いた場合には、高周波動作は可能で電力変換器の小型化は可能ですが、その合成方法やプロセス技術の特殊性から、低コストにはあると考えられています。

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