2050年までにネットゼロの軌道に乗るには、エネルギー転換への投資規模の早期拡大が今後10年間に不可欠

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ブルームバーグNEF(BNEF)の調査リポート「長期エネルギー見通し(NEO):2021」、2050年までに世界でネットゼロを達成するための3つの明確な道筋を検証

ロンドン・ニューヨーク、2021年7月21日 – ブルームバーグNEF(BNEF)はエネルギー経済の将来に関する長期シナリオ分析の最新版 「長期エネルギー見通し(NEO):2021 」で、2050年までに温室効果ガス排出量ネットゼロを達成するには、173兆ドルもの投資がエネルギー転換に必要であるとの見解を示した。ネットゼロへの道筋はいまだ不明確である。BNEFのNEOでは、異なる技術を用いネットゼロを達成する3種類のシナリオ(グリーンシナリオ、レッドシナリオ、グレーシナリオ)を示した。

エネルギー転換には、化石燃料からクリーンエネルギーやその他の気候ソリューションへ資本を移すこととなり、インフラへの膨大な投資が必要となる。NEOで設定した各シナリオのコスト総額には不確実性があるものの、BNEFの予想では、エネルギー供給とインフラへの投資が今後30年間で92兆ドルから173兆ドルまでに及ぶ。これには年間の投資額を2倍以上にする必要があり、現在の年間約1.7兆ドルから今後30年間は年間平均3.1兆ドルから5.8兆ドルまで増やすことになる。

BNEFのジョン・ムーア最高経営責任者(CEO)の見解:「ネットゼロの達成に必要とされる設備投資によって、投資家や金融機関、民間部門に膨大な機会が創出されることになる一方で、グリーン経済で多くの新規雇用が創出される。」

再生可能エネルギーと電化はエネルギー転換の要であり、早急な加速化が必須だが、水素や二酸化炭素回収、新型モジュール炉原子力発電といった新たな手段もできるだけ早く開発・導入する必要がある。今後9年間は、パリ協定に準拠した気温上昇抑制の軌道に乗るために極めて重要で、エネルギーシステムへの現在の年間投資額1.7兆ドルを急速に倍増させることが不可欠となる。

今回のBNEFの分析の中核は、2050年までに段階的にネットゼロを達成するためのセクター別カーボンバジェットの構築である。セクター別の取り組みをすべて合わせて、2050年にネットゼロに到達するには世界のエネルギー源排出量を2030年までに2019年水準の30%、2040年までに75%削減する必要がある。ここでは1.75度目標のカーボンバジェットが適用されており、これは現在の傾向―2015年から2020年にかけて毎年0.9%排出量が上昇―からの速やかな方向転換が必要である。 

電力分野は、排出量を2030年までに2019年水準の57%、その後2040年までに89%削減と、今後10年間で最大の進展が求められる。ただしエネルギー経済のどの分野においても、ネットゼロの達成には排出量の大幅な削減が必要だ。道路交通からの排出量は2030年までに11%削減、2030年代にはさらに削減幅を増やし2040年までに2019年水準の80%まで削減せねばならない。ネットゼロに向けた長期的な軌跡に沿って大幅に排出量削減するには、今後10年間で各分野において商用化されている削減技術の導入が不可欠となる。

図 1: エネルギーセクターのカーボンバジェット合計

2050年までにネットゼロの軌道に乗るには、エネルギー転換への投資規模の早期拡大が今後10年間に不可欠のサブ画像1_出所:ブルームバーグNEF出所:ブルームバーグNEF

今後9年間の排出量削減努力の4分の3以上は、電力分野と風力及び太陽光発電の迅速な普及によるものである。その他、交通及び建物の暖房、そして産業界での低温熱の供給にて電化が進むことから14%の削減が行われるであろう。鉄鋼やアルミニウム、プラスチックのリサイクルの拡大で2%、高エネルギー効率の建物により0.5%、持続可能な航空燃料と輸送燃料としてのバイオエネルギーの促進で2%、それぞれ削減できる。この期間はさらに、2030年以降の本格的な脱炭素化に向けた新しい技術の試験運用と運用拡大も欠かせない。 

NEO2021の主要執筆者、BNEFのチーフエコノミスト、セブ・ヘンベストの見解:「ぐずぐずしている時間はない。2050年までに世界がネットゼロを達成もしくはそれに近づこうとするなら、今あるさまざまな低炭素ソリューションの展開をこの10年で加速化させる必要がある。すなわち、風力や太陽光、蓄電池、電気自動車のさらなる普及に加え、建物のヒートポンプ、産業分野での電化の拡大、輸送・航空分野でのバイオ燃料への移行も不可欠だ。」

具体的には、2050年までのネットゼロ実現に向けて、2030年までに以下の各目標を達成する必要がある:

  • 2030年までに風力発電を毎年505ギガワット導入(2020年合計の5.2倍)
  • 2030年までに太陽光発電を毎年455ギガワット導入(2020年合計の3.2倍)
  • 2030年までに蓄電池を毎年245ギガワット時導入(2020年合計の26倍)
  • 2030年までに電気自動車を毎年3500万台導入(2020年合計の11倍)
  • 2030年までに持続可能な航空燃料を航空機燃料全体の18%に拡大
  • 2030年までにリサイクル量を2019年水準からアルミニウムは67%、鉄鋼は44%、プラスチックは149%拡大
  • 2030年までに毎年1800万台のヒートポンプを設置
  • 2030年までに産業界での低温熱分野で2019年水準から71%の電化を促進
  • 2030年までに石炭火力発電量を2019年水準から72%削減し、2030年までに石炭火力発電容量の約70%、すなわち1,417ギガワットを廃止

現在の一次エネルギーは化石燃料が約83%を占めており、風力発電と太陽光発電は1.3%にすぎない。BNEFのクリーン電力とグリーン水素を優先するグリーンシナリオでは、風力発電と太陽光発電は2030年に一次エネルギー全体の15%、2050年に70%に拡大する。一方、化石燃料は年間約7%ずつ減少し、2050年までに供給量全体のわずか10%となる。原子力による水素製造を優先とするレッドシナリオでは、核燃料は現在の一次エネルギー全体の5%から2050年には66%をも占めることになる。また、二酸化炭素回収・貯蔵の技術を普及させ石炭とガスの使用を継続するグレーシナリオでは、化石燃料は年間わずか2%の削減、2050年に一次エネルギー全体の52%となり、風力発電と太陽光発電は26%に拡大する。

図2:一次エネルギー供給の内訳:2020年および2050年(NEOシナリオ別)  

2050年までにネットゼロの軌道に乗るには、エネルギー転換への投資規模の早期拡大が今後10年間に不可欠のサブ画像2_出所:ブルームバーグNEF出所:ブルームバーグNEF

電化が果たす役割は大きい。3種類すべてのシナリオで、産業や交通、建物での電力使用は最終エネルギー全体に対して現在の19%から2050年には50%弱へ増えている。これによりグレーシナリオでは、2050年までに発電量は約6万2200テラワット時、2019年合計の2倍以上となる。一方、緑シナリオでは、大量の水素生産にも電力が使用されるため、発電量はその倍の12万1500テラワット時、2019年水準の約4.5倍である。これはグリーン水素生産用途(49%)と、経済活動で直接消費される最終用途(51%)に分けられる。

電力分野での排出量削減は主に新規の風力発電と太陽光発電がけん引し、BNEFの3種類のシナリオでは59%から65%の削減をもたらす。これには大きな躍進が必要である。これまで風力発電と太陽光発電が累計1000ギガワット普及するまでに20年かかっているが、グリーンシナリオで排出量ゼロを達成するには、今後30年間で毎年平均1,400ギガワットの再生可能エネルギーを導入していかねばならない。そのためグリーンシナリオでは、 再生可能エネルギーの市場機会は膨大となる:

  • 風力:2050年までに25テラワットの発電容量、すなわち2050年まで毎年平均816ギガワットの導入
  • 太陽光:2050年までに20テラワットの発電容量、すなわち2050年まで毎年平均632ギガワットの導入
  • 蓄電池:2050年までに7.7テラワット時の蓄電容量、すなわち毎年平均257ギガワット時の導入
  • 変動性再生可能エネルギー:2030年までに発電量全体の54%、その後2040年までに78%、2050年までに84%に拡大

BNEFエネルギー経済担当責任者マティアス・キンメルの見解:「エネルギー転換は本質的には不確定さが伴う。BNEFが今年、ネットゼロに向けた3種類の道筋をモデル化した理由はそこにある。世界がネットゼロに到達するために水素や原子力、二酸化炭素回収はどれも重要な役割を果たし得るもので、それぞれの技術の脱炭素ポテンシャルが実現されるのであれば、今後10年間で開発や市場への普及を進めていく必要がある。」

水素は、極めて小規模である現状から急速な拡大が必須となるが、シナリオによって役割の程度が大きく異なる。2050年における新たな水素需要は、グレーシナリオではわずか1億9,000万トンである一方、グリーンシナリオでは13億1,800万トンで、最終エネルギー消費量全体に対して現在の0.002%以下から約22%にまで拡大する。水素は、エネルギー媒体として、または排出量削減のための多くの用途があり、産業や建物、交通の分野における化石燃料の燃焼に置き換えられたり、電力分野では季節的需要変動に応じて再生可能エネルギーを補うためなど、どのシナリオでもネットゼロ目標の達成に役立つ。

図3:グリーンシナリオでの水素需要

2050年までにネットゼロの軌道に乗るには、エネルギー転換への投資規模の早期拡大が今後10年間に不可欠のサブ画像3_出所:ブルームバーグNEF出所:ブルームバーグNEF

二酸化炭素回収(CCS)技術は、発電やアルミニウム・鉄鋼・セメントの生産など、二酸化炭素が排出されるさまざまなプロセスへの適用が可能である。CCSが普及すれば、グレーシナリオでは、2050年までの見通しで174ギガトン以上の二酸化炭素が回収される想定だ。石炭とガスを引き続き使用するというこのシナリオでは、化石燃料の需要は年間2%減少するものの、2050年には依然として一次エネルギー全体の52%を占める。

原子力発電を優先するレッドシナリオでは、2050年までに原子力発電容量が7,080ギガワットとなる。これは、現在世界で導入されている原子力の発電容量の約19倍に相当する。そのうち半分弱が最終消費者側で利用され、これらは小型モジュール炉で発電されて再生可能エネルギーを補完する役割を果たす。残りは、専用の原子力発電所によるもので、電気分解装置を稼働させいわゆる「レッド水素」を生産する。この原子力の復興により核燃料の使用が促進され、2040 年には一次エネルギー全体の44%、2050年には3分の2と、最終的に大部分を占めることになる。

BNEFの分析では、どのシナリオでも化石燃料需要は今後30年間で大幅に減少するとみている。グリーンシナリオレッドシナリオでは、石炭や石油、ガスの燃焼需要は、2050年までにゼロとなり、再生可能エネルギーや電力、水素が代わりに台頭する。グレーシナリオでは、化石燃料の減少はそこまでではない。CCSの活用により、石炭を電力分野や産業分野で使用し続け、2030年以降はそれまで減少していたガスが再び増える。ただし、石油にはこれは該当しない。石油は主に交通分野で使用されており、CCSはほとんど役に立たないためだ。

BNEF「長期エネルギー見通し(NEO):2021」のエグゼクティブ・サマリーおよび詳細は、https://about.bnef.com/new-energy-outlook/をご参照ください。 

注記:当文書に記載するエネルギー移行への投資には以下が含まれる:発電、送配電網、蓄電池、水素の生産・貯留・輸送、二酸化炭素隔離・輸送・貯留、石油およびガスの上流・下流事業、および石炭の生産。

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